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PIPERS410号掲載

いま"NICK"が世界的な人気を得ている理由

名古屋フィルハーモニー交響楽団首席クラリネット奏者
ロバート・ボルショス Robert BORSOS

記事協賛:株式会社グローバル


オーストリア生まれのマウスピースがヴェンツェル・フックスやオッテンザマー親子、カール・ライスターはじめフランスのパスカル・モラゲスやロマン・ギュイオ、さらにはニューヨークフィルなどアメリカの名手たちにまで浸透していることをご存知ですか?早くからこのマウスピースを愛用するロバート・ボルショス氏にその人気の秘密を聞いた。

 ――「NICK」のマウスピースを使い出したのはいつ頃から?
ボルショス もう何年も前から。製作者のニック・クックマイヤーとは一緒にグラーツ国立音大(オーストリア)で勉強した仲だから、彼をよく知っていた。
 ――そうなんですか。
ボルショス でも彼がマウスピースを作り出したのは知らなかった。ずっと後の話(2001年)ですからね。いまミュンヘンフィルの首席をしている親しい友人が教えてくれたんです、「とってもいいよ」って。最初はジャーマンシステム用のマウスピースから作り始めて、そのうちヴェンツェル・フックスやオッテンザマーたちが使い出して評判になり、その後フレンチ用も作るようになった。
 初めて吹いてみたのはウィーンです。そのときはピッタリ来なかったけれど、その後いろいろ改良されたと聞いて、日本に何本か送ってくれるように彼に頼んだ。というのも、そのころ私は、日本の湿度や気候がヨーロッパと全然違うのでマウスピースやリードのセッティングにとても苦労していました。送られて来たマウスピースを試したら、とても具合が良く「これだったら苦労しないで済む」と思って、以後はずっとNICKを使い続けています。
 ――オッテンザマー親子やヴェンツェル・フックスが使い出したという話は日本でもすぐに広まりましたが、評判は当初、ドイツクラリネットの世界に限られていました。 ところがそのうち、パスカル・モラゲスやロマン・ギュイオといったフランスから来日する有名プレイヤーたちもNICKを使っている。それで俄然フレンチ用のNICKに注目が集まりました。 ドイツのオーケストラでベームシステムを使っている、例えばシュトゥットガルト放送響首席のディルク・アルトマンも使っていましたね。
ボルショス アメリカでも、アンソニー・マクギル(ニューヨークフィル首席)が、彼がメトロポリタン歌劇場にいた頃は間違いなく使っていましたね。ニューヨークフィルではパスカル・マルティネス・フォルティーザも使っているとニックは言っている。 日本でも、名古屋フィルの僕の同僚の井上京さんほか、何人かが使っている。

独特の心地よい抵抗感!

 ――何がこれほど広く使われている理由だと思いますか?
ボルショス NICKには独特の心地よいレジスタンス(抵抗感)があるんですよ。私は、プッと吹いてすぐに鳴るようなものは好きじゃない。もちろん楽に響くことは大切だけれど、奏者にとってはある程度抵抗のあるマウスピースの方が吹きやすいんです。このマウスピースは息を絶妙に受け止めてくれます。
 その心地良い抵抗を作っているのは、マウスピースのフェイシング部分のレールの幅だと思う。NICKは一般的なフランスのマウスピースよりもこの幅が太い。ティップのレールも太め。これがサウンドに厚みとまろやかさをもたらし、音を均質にしています。これは私の大好きなジャーマン=オーストリアン・サウンドの特長ともいえる。
 レールが太いとリードが暴れません。レールの細い一般的なマウスピースではリードがバタつきやすくなる。その点NICKでは音がきちんとホールドされる。だから安心して美しいピアニシモも出せるんです。低音域から高音域までムラなく均一な音が出せるのもそのせいです。フランスのマウスピースは往々にして均質性に問題があり、高音域も甲高い音になりがちですが、NICKでは高音域も落ち着いた響きで楽にコントロールできます。
 ――それが、サウンド以外でもフランスのクラリネット奏者たちに好まれる理由なんでしょうね。
ボルショス だと思います。もちろん、リードの組み合わせを変えれば明るい音も出せるし、さらに暗く柔らかい音も出せます。NICKのサウンドはとても美しいので、室内楽で効果的に使う人もいますね。
 ――般的なフランスのマウスピース以外では、日本ではアレキサンダー・ヴィルシャー(オーストリア製)も人気がありますが、ヴィルシャーも傾向としてはNICKに似ていませんか?
ボルショス 詳しくは分からないけれど、レールの太さなどコンセプトやアイデアはとても似ていると思う。
 ――ヴィルシャー愛用者もぜひ試してみると面白いと思います。
ボルショス ニック本人は宣伝にあまり熱心ではなく、今までNICKを知らない人が多かった。グローバルが代理店を務めるようになって、これからは日本でももっと拡がるでしょうね。

レジェール・リードとも相性が良い

 ――NICKのフレンチ用には「Playeasy」のB1、B2、B3と「Solist M」の4種類のモデルがありますが、お吹きになってどんな違いを感じますか?。
ボルショス 私が主に使っているのはB2です。B1はフレンチ用の最初のモデルで、ティップオープニングがほかよりもやや狭く(フェイシングはやや短め)、少し硬めのリードがフィットします。B2はバンドーレンのB40に近いティップオープニングで(フェイシングは中程度)PlayEasyシリーズでは最も人気のあるモデル。B3はティップオープニングが大きめで(フェイシングは長め)、楽に音を出せるマウスピース。適度な硬さのリードを付ければ、ビギナーや初級者にはぴったりだと思います。SolistMは、もともとジャーマン用はこのモデルのみ。フレンチ用も最近とても人気が出て来て、フランスのプレイヤーなどにも多く使われているようです。
 ――ボルショスさんはリードは何をお使いですか?
ボルショス レジェールのシンセティックリードと通常のケーンのリードを使い分けています。ケーンの方はダダリオ(旧リコ)の「エヴォリューション」の4番。ケーンのリードはSolistMともとても良く合うようです。実は今日の取材前にSolistMを改めて試してみたら、とても気に入ってしまった。2週間前にもグローバルでB2を選んだばかりなのに(笑)。
 NICKはレジェールのシンセティックリードとも相性が良いのですが、例えばB3にレジェールのリードという組み合わせなど、初心者にはとても良いかも知れない。ほかに、面白いことにNICKはレジェールのソプラノサクソフォンのリードとも相性がぴったりで、これは日本でも一部の人たちの間ですでに有名です。

セルビアに生まれ、大学2年目にオーストリアに留学

 ――ボルショスさんはセルビアのご出身ですが、ベームシステムで始めたのですか?
ボルショス セルビアやハンガリーではベームシステムが一般的です。私は生まれはセルビアですが、両親はハンガリー人。
 ――どういった勉強をして来られたのかざっと教えてください。
ボルショス 9歳でクラリネットを始め、普通の学校に行きながら週に2日間、午後に町の音楽学校に通いました。とても良い先生に恵まれてクラリネットを吹くのは楽しかった。10歳で首都ベオグラードのコンクールに優勝するとモチベーションも上がり、ゲーム感覚でいろんなことに挑戦しながらどんどん上達して行きました。17歳でセルビアの音楽大学に入り、1年目を終えたときにオーストリアのグラーツ国立音大に留学し、有名なベーラ・コヴァーチ教授に師事しました。
 ――子供の頃の音楽環境はどうだったのですか?
ボルショス CDなどはまだ無かった頃です。毎週月曜にベオグラードのラジオ局がリスナーのリクエストでクラシック音楽を流す番組があり、子供だった私も恐る恐る「シュターミッツのクラリネット協奏曲をお願いします」と電話をかけてみた。そしたらある日「これから××村のロベルト君のリクエスト曲、シュターミッツとモーツァルト、ウェーバーのクラリネット協奏曲をお送りします」というアナウンスが流れて来てビックリ(笑)。慌ててテープレコーダーの録音ボタンを押したのを覚えてます。
 ――コヴァーチ(1937年生まれ)先生からは何を学びましたか?
ボルショス 音のとても美しい人で大きな影響を受けました。彼は天才的な人でしたが、驚くべきことに私が習っていた頃の方が(コヴァーチ氏は60代)音色はそれまでよりずっと良くなっていた。コヴァーチはジャーマンシステムで始め、後にベームシステムに移った人です。クラスの学生はジャーマンとベームが半々でした。私が習ったもう一人の先生、ウィーン交響楽団首席のゲラルト・パッヒンガーも素晴らしかった。とてもシャイな人ですが、演奏も指導も人間もあれ以上の人はいないと思うほどの先生です。
 ――2007年に兵庫芸術文化センター管弦楽団に入団した時が初来日?
ボルショス そうです。それまで日本のことはほとんど知らなかった(笑)。前にも話が出たミュンヘンフィルの友人が当時、兵庫のオケにいて、彼から「席が一つ空くから受けてみないか」と誘われたんです。メンバーはみんな若くて国際的だと聞いて、そんな中で演奏するのは楽しいだろうと思った。それで録音を送り、ミュンヘンで佐渡(裕)さんのオーディションを受けました。
 ――日本の第一印象は? ボルショス 食べ物が美味しい!(笑)人々もみんな親切で、世界にこれ以上親切な人たちはいないんじゃないかと思うほど。もちろんオーケストラのレベルも非常に高く、みんな真剣に練習してベストを尽くそうとしているのは素晴らしいことですよ。
 ただ、2010年に名古屋フィルに移り、私の生活はガラリと変わりました。それまでは独身で気楽に暮らしていたのが、結婚して可愛い娘もできたことで、責任が増えたと同時に、家族と一緒に暮らす幸せを今は感じています。
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